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作り手の「手」を追って

interview 05/紺野静子さん(浪江町津島)

菜種の記憶と土の喜び。

 1938(昭和13)年、浪江町津島の農家に生まれた静子さん。幼い頃から田植えやたばこの葉を広げる「葉のし」を手伝いながら中学校まで過ごしました。高校の三年間は一旦故郷を離れ、卒業後は再び故郷へ。その後、24歳のときに結婚、現在まで4人のお子様と11人のお孫さんに恵まれています。
 子育てが一段落ついた頃から、山菜やキノコあるいは畑の野菜を使った、味噌漬けや塩漬け、梅干しといった保存食作りに取り組み、直売所での販売を通じてお客様や仲間との交流を盛んにしてました。

ごちそうは油炒り

 「津島では素材そのままの素朴な味をいつも食べていたの」。

 山が見守る地域で育った静子さん。家の近くで採れたフキやたらぽ(たらの芽)といった山菜の鮮やかな色や、大根、白菜の瑞々しさは、幼少期から身近なものでした。これらを使った料理が食卓に並ぶ中で、特にごちそうだったのが油炒り、つまり油炒めです。当時、油は量が少なく値段が高かった贅沢品。揚げ物や炒め物といった料理は、毎日食べられるようなものではありませんでした。
 「お店には売っていたのかもしれないけど、お金がなければ自給自足するしかない。そういう時代だった」。それもあって、自家製の味噌で味付けされた山菜や白菜の油炒りは、田植え時やお祝い事の際に食べるものでした。
 この時代、油炒りに使われたのは、ラードや鶏皮といった動物性のものではなく、アブラナの種を原料とした菜種油。静子さんの家でも畑で収穫された菜種を近所の搾油屋さんに持ち込んで、油を手に入れていました。今でこそ、炒め物は手軽にできるおかずの代表となりましたが、色褪せることのない菜種の記憶を出発点として、材料に時間と手間を費やしていたのです。
 子育てが一段落した静子さん、次の仕事は家の畑で育てた野菜の味噌漬けやきのこの塩漬け、梅干しなどを昔ながらの方法で作り、浪江町津島の直売場で販売することです。週4日の機会ではお客様だけではなく同じく販売する仲間にも恵まれ、共に楽しい時間を過ごしていました。「梅干しを前に買ってくれた町外の方が、『今年はいつごろ作るの?』って電話が来たときもあったね」と顔をほころばせます。また、震災が起きた年の3年前から自分の畑で菜種を育て、直売場にある搾油器で油を絞っていました。
 震災後は農作業ができない環境にいた静子さんでしたが、こうした繋がりがきっかけに、避難先の近くにある畑で地元の学生たちと農作業する活動を紹介されたり、行動範囲の広がりに結びついたのです。

野菜と味噌のない生活

 「野菜や味噌を買って食べるなんて、津島にいたときには考えたこともなかった」。

 震災とそれに伴う原発事故により故郷が帰宅困難地域になり、静子さんの生活は一変しました。同郷の友人と「野菜も味噌も自分で作ってたのに、買いだて(=買うこと)だから大変だよなあ」と話します。
 福島市の借り上げ住宅に越した2013年の夏から、庭に自分の畑を作りました。土に鶏糞(けいふん/肥料)を入れて、くわで耕すことから始め、今ではきゅうり、なす、ねぎ、赤唐辛子など自分たちで食べる野菜を作っています。「津島の家には漬物を置く8畳ぐらいの専用の場所があって、流し台もついていた。今は置くところがなくて玄関や外に置いているの」。住宅の外には旦那さんが板で作った縦1m横2mの漬物箱が置かれ、幼き日に見つめていたのと同じ方法で、とれたての野菜で漬物を作っています。「体力的に難しいときもあるけど、土に触る生活が楽しい。とにかく畑をやりたかったの」。
 静子さんはご自分の経験から、終戦直後の故郷と3.11後の故郷は対照的な状況であると指摘しました。
 「震災後の被災地は69年前の終戦直後の日本と似ているという人もいるけど、やっぱり昔と今は違うんだ。
津島にもたくさんの人が戦地から引き揚げてきて、まず唐鍬で土をおこすことから始めたんだよ。それから畑を作りじゃがいもを育てた。モノもお金もなかったけど畑があったんだ。だから震災前までは何もかも作って食べられていたけど、今はモノやお金があっても自分の畑がああなったから作れない。子供の頃、正月に買ってもらえた足袋や下駄に幸せを感じたり、澄みわたる大自然と恵み豊かな田畑の中で暮らせたあの頃のほうが、精神的には豊かだった。」
 浪江町津島にいたときには、自分で作った野菜や味噌を県外にいる孫に送ったりもしていました。「送られた味噌がなくなって市販の味噌を買って食べたら『ばあちゃんの味じゃない』ってわかるって。そういうの聞くと余計一所懸命作って送りたくなるんだよね」。
 今は故郷の山で採った山菜を食べることはできませんが、お子さんやお孫さんが食卓に集まった時には、お店で買ったふきやわらびを塩漬けにしたもので料理を作り、食べ継いできた料理にまつわる思い出話もしているそうです。

 

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▶︎紺野静子さんの伝承料理/ふきの油炒りをご紹介

 

▶︎紺野静子さんの伝承料理/味噌漬けのおふかしをご紹介

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